化学物質過敏症(MCS)とは
MCSとは、Multiple Chemical Sensitivityの頭文字で、日本では”化学物質過敏症”や"CS"と言われることが多いです。
化学物質過敏症は1947年にシカゴ大学のアレルギー専門医Randolph(ランドルフ)が提唱した病であり、決して新しい病気ではありません。日本では以前は完治の見込めない病と思われていましたが、研究が進み、現在の医学では栄養バランスを考えた食事と規則正しく新陳代謝を促す運動や生活、転地療養などで早ければ1ヶ月、長くても3年ほどで完治することが難しくない病気だと言われています。また神経障害性疼痛治療薬や精神医学的治療など、お薬や心理カウンセリングによって完治する患者さんも多くいらっしゃいます。
今はもう昔に言われていたような“化学物質過敏症は寝たきりになり完全に社会から隔離されてしまう”というようなことはありません。適切な衣食住の環境改善と心理的ケア等を組み合わせた治療を受けることで社会生活を営むことが十分可能だとされています。化学物質過敏症を患いながらも社会生活を送っている患者さんは多くいらっしゃいます。
化学物質過敏症は「命に関わる病気では?」と不安になる患者さんも多いですが、医学的に化学物質過敏症はアレルギーとは異なりアナフィラキシー等 命に関わる症状を起こしません。実際に化学物質過敏症で死亡した医学的事例なく、自死以外で化学物質過敏症で亡くなることはありません。
「死んでしまうかも」という強い不安は患者さんの大きなストレスになります。ストレスはどのような病気も悪化させてしまうので、そのようなことはあまり考えない方が症状の改善には良いでしょう。またインターネットなどに書かれている根拠のない情報に惑わされないようにするのも大切です。患者さんとそのご家族を含め、不安になるような情報を目にしない安心できる環境を作ることも良いでしょう。
化学物質過敏症の発症年齢は40代以上の女性が多く、子供では発症しにくいと考えられています。ご両親が発症した場合、お子さんのことを心配なさることが多いですが、遺伝するなどの医学的研究はありません。ご両親が強い不安をお持ちになることで、お子さんの生活に必要以上の制限がかせさられ、そのプレッシャーに耐えられずお子さんが心の病気を発症されるケースも少なくありません。化学物質への接触を恐れるあまり、家族との亀裂が生じる場合も多いです。化学物質発症の根底に精神疾患、更年期、子離れ、うつ病、過去の虐待、LGBTQ+、親の過干渉、夫婦・家族関係の不和などが関係している場合もあり、それらが解決すると共に完治する患者さんも多いです。
化学物質過敏症の患者さんのおおよそ8割に精神症状が出現しているという医学的データがありますので、気分がすぐれない、またはご家族がいつもと様子がや雰囲気が違うなど、少しでも気がついた点がありましたら、精神科・心療内科の受診をおすすめします。
周囲の人ができることとしては、柔軟剤を控える、洗剤やシャンプーを石鹸素材に変える、喫煙や防虫剤、香水、芳香剤、消臭剤、整髪料、制汗剤、化粧品、農薬などの化学物質の使用を極力控える、患者さんの話をよく聞く等があります。
化学物質過敏症に理解がある人が患者さん周囲にいることは患者さんの安心につながり、治療の励みになります。
MCSかも?と思ったら
化学物質過敏症は完治しない不治の病ではありません。適切な治療を受ければ、完治することも可能な病です。
化学物質過敏症の背後には別の病気が隠れていることも少なくないため、自己診断などはせず、まずは総合病院等大きな医療機関を受診することをおすすめします。